2013年6月25日火曜日

福岡県 海水淡水化センター:稼働状況 編(藤原雅俊)

2013年6月25日執筆

 前記事では、福岡県の海水淡水化センターの設立背景と、そこで使用されている膜エレメントについて報告しました。今回は、海水淡水化施設の稼働状況と造水コストについて、今わかる範囲のことを報告したいと思います。


◆稼働状況
 海水淡水化センターを見るときに気になるのは、稼働状況です。沖縄の海水淡水化施設では稼働率が10年間の平均で25%と、かなり低い水準にとどまってしまっていました。その主な理由は、ダムが整備されたことと高い造水コストにありました。

 では、福岡はどうでしょうか。福岡地区水道企業団の『環境保全実行計画評価書』の報告をもとに、生産水量(m3)、使用電力(kWh)、一日あたり生産水量、電力生産性(1kWhあたりの生産水量)の推移を示したのが、下の表です。




 福岡の場合、一日あたりの最大生産水量は50,000m3ですから、一日あたりの生産水量から計算される稼働率は70.9%(H20)、83.4%(H21)、78.0%(H22)となります。沖縄と比べると、高い稼働状況であることがわかります。守田(2011)に基づいて、もう少し長い時間軸で一日あたりの生産水量の変化を辿ると、40,000m3(H17)、30,000m3(H18)、40,000m3(H19)、36,000m3(H20)、37,000m3(H21)となります。ここで記されている平成20年度の数値(36,000m3と上記表の値(35,582.6m3)の間にも、そこまで大きな乖離はありませんので、大方の傾向はこれで辿れると思います。やはり福岡の方が相対的に高い稼働率で推移してきています。


◆電気代の重さ
 電気代はどうなっているのでしょうか。「まみずピア」における海水淡水化の電気代については、今のところ断片的な情報しか見つけられていません。海水淡水化センターを建設する当初の時点の試算として、太田(1999230円/m3と報告しています。稼働後、日本機械工業連合会が2010年に発刊した『平成21年度 アジア諸国における水需要の急拡大に伴う機械産業の事業機会探索調査報告書』によれば、2007年度における福岡の造水コストは、210円/m3(減価償却費など資本費を含む)となっているそうです。福岡地区水道企業団は基本料金157円/m3で水を売っているようですので、やはり海水淡水化の造水コストは売価を上回っているようです。

 その主な原因は、電気代にあります。海水から淡水を造る際には非常に大きな圧力をかける必要があり、その分だけ電気代がかかってしまうのです。福岡の海水淡水化施設では、高圧RO膜に通す際に最大8.2MPaまで加圧する必要があります。

 上記報告書によれば、福岡では造水コストの25%が電気代ということですから、その電気代は、ざっと52.5円/m3となります。再び沖縄を比較対象に引くと、2004年度における造水コストが120.66/m3で、動力費がその45.3%を占めるということですから、沖縄の電気代は54.6円/m3と計算されます。あくまで推計ですが、両都市ともに50円台で似たような水準で落ち着いている点をみると、そう大きく外れた値でもなさそうです。

 問題は、この電気代が変動費にあたるので、設備の稼働率勝負に持ち込めないところにあります。電気代が造水コストを重くし続けそうです。

 よって、沖縄でもそうであったように、どうにかしてこの重いコスト負担を軽減し、採算性を向上させようとする取り組みが福岡でも見られます。沖縄では空調設備の節約や、施設の稼働を工夫することで、できるところから可能な限りコストを削減しようという努力をしていました。福岡では、省エネによるコスト削減に加え、海水から淡水を取り出した後に残る濃縮海水の販売や、膜エレメントの中古販売など、少しでも収益につながる可能性を模索しています。ちなみに、偶然かもしれませんが、濃縮海水の譲渡価格52.5円/m3は、上で推計した電気代と一致しています。

 福岡の海水淡水化において救いなことは、福岡の水道料金が全国的に見て昔から割高である点かもしれません。沖縄の水道料金は102円/m3ですから、造水コストが120円まで落ちてもなお赤字でした。しかし、福岡地区水道企業団の水道基本料金は1988年から157円/m3となっていますから、福岡の造水コストが沖縄程度まで下がれば、単純計算ながら割に合うことになります。

 ただもっと良く知りたいことも多いので、8月下旬に「まみずピア」を訪問して、海水淡水化センターの歴史や稼働状況、膜エレメントの交換状況、採算性向上に向けた取り組みなどについて、お話を伺う予定です。とても楽しみにしています。

(藤原雅俊)

2013年6月23日日曜日

小型地熱・温泉発電の可能性(5):九重観光ホテル地熱発電(昨年分)(青島矢一)


以下の記事は、昨年(2012年)の2月に書いたもので、これまでは公開を控えていたものです。その時点では九重観光ホテルの地熱発電所はタービンの故障で停止しており、FITを控えて、投資を検討している段階でした。

今回(2013年6月)、あらためて九重観光ホテルの地熱発電所を訪問し、現状についてお聞きしたときに、小池社長から前回の分も公開しても構わない了承を得ました。今回の訪問については次回記述しますが、その前提として、まずはこちらの記事をアップします。

ーーーーーーーーーーーーー
2012年2月23日

ターボブレードでのインタビューを終えて、九重町(ここのえちょう)にある九重(くじゅう)観光ホテルへと移動しました。

九重観光ホテルはホテル敷地内に地熱発電所をもつことで有名なホテルです。ホテル到着後すぐに、小池社長に地熱発電所開発の経緯など話を聞きました。



非常に丁寧にいろいろとお話してくださいました。感謝です。

はじめに、残念ながら昨年9月から発電所が止まっていることを聞きました。どうやらタービンのブレードが壊れたようで、現在は設備の更新を計画しているとのことでした。

九重観光ホテルの地熱発電所は、先代社長の時代に計画され、それを小池社長が引き継ぎました。1995年に掘った井戸からのエネルギーが大きかったので、それを有効活用する形で計画がスタートしました。大分では既に杉の井ホテルに民間の地熱発電所があったことも計画を後押ししたということです。

95年に掘った蒸気井は500キロワットで認可され、その後、1997年に2本目の蒸気井が掘られました。2本目が加わることによって合計2000キロワットの出力が得られることになりました。

しかし、九重観光ホテルは、国立公園特別区第2種に立地しているため、自然公園法の規制対象となっており、飽くまでも自家用の発電所であることが認可を受ける上での前提となっていました。

ホテルで必要となる分が500キロワット分くらいであるとすると、2000キロワットの出力は大きすぎるということで、1000キロワット以内に出力を落とす形で建設が進められることになりました。結果として、ここの地熱発電所の出力は、990キロワットとなっています。もったいないのですが、エネルギーを捨てているわけです。

休止中のタービン川重製
タービンの仕様


発電所の設備を担当した人の当初の提案では、初期投資額5億円、余剰電力を13円/kwhで売ることになっていました。10年くらいで投資回収できる計算だったそうです。

しかし予定していた九州電力との売電契約がなかなか実現しませんでした。反対している温泉業者があったことも1つの理由でした。

温泉業者が反対する理由として良くいわれるのは、お湯が出なくなることに対する心配です。しかしそれだけではなかったようです。近隣の人々は地熱発電による収益をかなり気にしていたといいます。確かに、温泉の権利は各ホテルがもっているので、発電所のために蒸気井を掘るのは自由です。でも、同じ温泉場を共有する人たちが、投資余力のある九重観光ホテルだけが地熱発電を行って利益を得ることを好ましく思わないということも、理解できないではありません。

近隣の温泉業者を周り、許可を得ることを、九州電力から求められた小池社長は、紙と印鑑をもって近隣を歩きまわりました。結果として、一軒を除いて明確な反対はでませんでしたが、当初計画していた金額での売電はかないませんでした。

実際に発電施設が動き始めたのは2000年、売電できるようになったのは2003年のことです。売電価格も当初計画していた13円にはほど遠く、火力発電のコストと同じ価格ということになりました。おそらく4円とか5円ではないかと推察されます。最近になって、九電からIPPに売却先を変更したとのことでした。その方が少しでも高く売れるからです。

冷却塔
日立製発電機

5億円という莫大な投資を決めたにも関わらず、初期段階はほとんど見返りのない状態が続いたことになります。九重観光ホテルにはそれに耐えるだけの体力はありませんでしたので、最終的にはメーカーと交渉をして、銀行からの借り入れと政府からの補助金3800万円を加えた2億円で施設を買い取ることになりました。

このように、様々な障害ゆえに計画通りすすまなかった九重観光ホテルの地熱発電所ですが、うまく進めば、経済的に十分成り立つ可能性があります。小池社長によれば、経済性を確保するには、事前調査と井戸の掘削にお金をかけないことだといいます。

九重観光ホテルでは、事前調査はせずに、井戸を掘っています。それだけ良い場所に立地しているということです。2本ある井戸の内、一本は350m、もう一本は405mの深さですから、1000m以上の深さの井戸をもつ大規模地熱発電所に比べれば、ずっと浅い井戸です。

1つ井戸を掘るのに必要なコストは3000万円程度だそうです。3000万円で1MWの井戸が掘れるのですから、非常に安いと思います。以前アイスランドで調べたときには、1MWあたり100万ドルくらいといっていました。

当初の5億円という投資でも、もし実際に可能であった2MWの出力をだせれば、90%の稼働、20年の寿命として、初期投資だけを考慮したときの平均の発電単価は2円/kwh以下です(発電効率を90%として、年間1600kwh*20=3.2kwhなので、2/kwh以下となる)。もちろん、これに年々必要となる様々な間接費がかかってきますので、そう簡単にはいきません。

九重観光ホテルでは、地熱発電のために3人の人を雇用しています。この人件費で年間800万円程度かかるといいます。それに定期的な検査、オーバーホールなどの費用がかかってきます。具体的にいくらくらいかかるのかわかりませんが、おそらく、オーバーホールするとなると数千万はかかるでしょうし、定期的なメンテナンスも大手メーカーに頼むわけですから、かなりの費用がかかるのではないかと思います。

ただ、この運営にかかる部分、地熱発電所のマネジメントには工夫の余地があるように思いました。マネジメント次第では、非常に高い経済性が見こめるように思いました。

実際には、九重観光ホテルの地熱発電所は、2000年に稼働してから、13年目に故障してしまいましたし、なかなか売電できなかったり、売電できても売電価格も低かったりしたため(地熱のフラッシュはRPSの対象になっていなかったので、電力会社としても買い取るインセンティブが乏しい)、経済的には厳しい状況が続いたようです。ただ、今回のお話をお聞きしていて、民間による地熱発電所自体の潜在性は高いと感じました。

今回のお話を通じて、地熱発電が普及しないメカニズムの一端を垣間見たような気がしました。つまり、潜在的な経済性が高いことを公にできないから普及しない。潜在的な経済性が高いことを公にしないから経済性の追求が進まない。だから投資対象としても魅力的に見えないし、それゆえ案件が増えないから、メーカー側も本気にならない。

こんな感じでしょうか。ちょっと日本特有な部分がありますね。

2013年6月20日木曜日

福岡県 海水淡水化センター(設立背景と膜納入企業 編)(藤原雅俊)


2013年6月20日執筆

 1年ぶりの投稿になりました。前回は、沖縄北谷の海水淡水化センターについて報告(前記事)しましたので、今回は、福岡の海水淡水化センター「まみずピア」について、二次資料が教えてくれる歴史と概要を報告したいと思います。


◆福岡の海水淡水化センター
 福岡で海水淡水化施設建設の機運が本格的に高まったのは、1994年の渇水が契機だと見て良いでしょう。福岡地区水道企業団が発刊している『福岡地区水道企業団の概要』(2011)によると、1994年の年間降水量は福岡管区気象台観測史上最低を記録し、わずか1055.0mmにとどまりました。1971〜2008年までの年間平均降水量が2155.5mmですから、例年の半分しか雨が降らなかったということになります。1994年8月4日から1995年5月31日までの300日間で、取水制限日数は実に295日に及びました。事情は異なれど、沖縄と同様に、福岡もまた水の安定供給に不安を抱える地でした。

 福岡の渇水状況を打開すべく、1996年6月12日、水資源開発公団(現 独立行政法人水資源機構)は福岡都市圏海水淡水化導入検討委員会を設置しました。その後、1997年10月16日に福岡県で「福岡地域広域的水道整備計画」が改定されて海水淡水化事業が位置づけられ、福岡地区水道企業団が事業主体となることが決まりました。この改定を受け、11月10日、福岡地区水道企業団に福岡都市圏海水淡水化施設検討委員会が組織されました。翌1998年に厚生省(現 厚生労働省)から海水淡水化事業認可を得た後、1999年4月から海水淡水化施設の整備が始まりました。

 建設地は、玄界灘に面した福岡市東区大字奈多。かつて金印が見つかった志賀島や、海の中道海浜公園に近い場所で、46,000m2という広大な敷地が確保されました。同施設の工事は2001年から始まり、「海の中道奈多海水淡水化センター」として2005年3月22日に竣工、同年6月1日から供用が開始されました。最大生産水量は1日あたり50,000m3(福岡都市圏25万人分に相当)ですので、沖縄県(40,000m3/日)を抜いて、日本最大の海水淡水化施設ということになります。最大ということもあって、総事業費も約408億円(うち、国庫補助率50%)で沖縄(346億円)を上回っています。


◆海水淡水化で用いる膜と納入企業
 福岡の海水淡水化センターでは、海水を3種類の膜に通して真水を作っています。最初に通す膜が0.01μmの孔を持つUF膜で、ここで濁質分や菌類を除去します。その後、より小さな孔を持つ高圧RO膜に通します。この高圧RO膜を通って得られた水は、ホウ素の含有量に応じて低濃度と高濃度のものに分けられ、高濃度の水がさらに低圧RO膜を通り、濾過されていきます。このようして同センターは、投入する海水の60%分の淡水を作っています。

 福岡では、UF膜エレメントが3,060本(3本×85ベッセル×12基)用いられ、高圧RO膜エレメントとして中空糸型10インチエレメントが2,000本(2本×200ベッセル×5基)用いられています。低圧RO膜ユニットには、スパイラル型8インチエレメントが1,000本(5本×40ベッセル×5基)導入されています。

 では、どの企業がこれらの膜エレメントを納入したのでしょうか。日東電工のプレスリリース(2005年1月6日付)からセンター竣工時の納入状況を判断すると、

UF膜:すべて日東電工製
高圧RO膜:すべて東洋紡製
低圧RO膜:すべて日東電工製
ということになります。

 日東電工は、UF膜「RS50-S8」3,060本、低圧RO膜「ES20B」1,200本をセンターに納入し、約10億円を売り上げたとのことです。同社の納入本数は、センターで用いられている本数と一致するか上回っています。予備という意味合いがあったのかもしれません。一方、高圧RO膜は中空糸型だったということですから、これは東洋紡(同社だけが中空糸型に特化した)が一手に引き受けたのだと考えられます。日東電工のプレスリリースにも、高圧RO膜は東洋紡製だと記載されています。

 福岡の海水淡水化センターにおける膜の年間交換率は、それぞれ20%、15%、20%(守田、2011)ということですから、ひょっとすると現在はやや変わって来ているのかもしれません。少なくとも、センターの開業当初はこのような状況だったようです。

つづく

(藤原雅俊)

2013年6月19日水曜日

小型地熱・温泉発電の可能性(4):霧島国際ホテル


霧島国際ホテル地熱発電所全体

前回までバイナリーの温泉発電が経済的に成り立つにはかなりの好条件が揃うことが必要となることを書いてきました。では、小型の温泉発電にはまったく芽がないのかといえば、必ずしもそうではありません。

瀬戸内自然エナジー以外にも、これまで調査してきた中で、小型のフラッシュ方式(地下からの蒸気で直接タービンを回す方法)を使って、経済的に発電を行っている例を見てきました。

1つは、霧島国際ホテル、もう1つは九重観光ホテルです。さらに、現在、小国町のわいた温泉郷で中央電力が開発をすすめている案件もよさそうです。わいた温泉における開発の例は、地熱開発の新しいスキームとして注目に値します。そのあたりは大変興味深いので、別途、次回以降に書きたいと思います。

今回はまずは霧島国際ホテルの事例から。

霧島国際ホテルは、1971年に建設された客室数123室の大規模なホテルです。現在、3本の温泉井戸を使って運営されています。深さはそれぞれ、250m300m400m、温度は142℃と高温で、蒸気95%の蒸気卓越型の井戸です(温泉として使うにはタンクの水に蒸気を吹き付けます)。


霧島国際ホテル


最初から発電を行ったわけではありません。最初は当然、温泉としての利用です。続いて1974年から給湯・暖房用に温泉熱を利用し始めました。現在でもホテル内の給湯と暖房は100%温泉のエネルギーで賄っています。



さらに1983年からは温泉熱を冷房に利用し始めました。水化リチウムを使用した吸収式冷凍機です。それによって冷房用の使用電力は300W から2kWに減りました。ホテルの冷房全てをこの吸収式冷凍機で賄うこともできるそうですが、夕食時に鍋に一気に火をつけるときなど、急激に冷房を強める必要があるので、そのために、通常のエアコンも併用しています。



給湯設備
吸収式冷凍機

地熱発電を始めたのは1984年の2月です。出力100Wの小型フラッシュタービンです。発電は、「大浴場→給湯/暖房→冷房」と使用された後の、残りのエネルギーを使って行われています。100Wでホテルの電力を全て賄えているわけではありません。ホテルで使用される電力は、夏場のピーク時で750Wあります。地熱は100W分のベース電源として活用されており、足りない分は電力会社から買電しています。

霧島国際ホテルは売電をしておらず、全て自家消費しています。現在のFITによる高い買取価格の恩恵も一切受けていません。しかし、それでも十分に採算があっているといいます。そのからくりは、もともと温泉として利用していたエネルギーの残った部分を、給湯・暖房、冷房、発電と無駄なく利用しているためです。

発電も無理に発電量を増やしたりはしません。むしろ、温泉の温度を、発電設備の蒸気のバルブを開け閉めすることによって調整しています。飽くまでも温泉が先にありきで、温泉や冷暖房に支障のない範囲で発電をするという考え方です。

井戸と配管

温泉熱利用による経済効果は年間で3500万円から4000万円といいます。暖房用の重油の節約が2700万円、電気代では、多いときに1000万円程度の節約となります。これ以外にも、ボイラーを炊かなくなったことによって、ボイラー要員が3名不要になったという効果もあったそうです。

もちろん、温泉の整備代などのランニングコストはかかかりますが、それは温泉事業を営む限りは、発電の有無に拘わらず必要になることですので、発電による追加コストとはいえません。また、規制によって必要となっているボイラー・タービン主任技術者や電気主任技術者も、そもそもホテルの従業員の中にいますので、追加的な人件費がかかるわけではありません。

これは売電をしないことの理由の1つでもあります。売電事業を始めると、事業体としてホテル事業と切り離す必要がでてきますので、ボイラー・タービン主任技術者や電気主任技術者を含め、重複して人件費を支出しなければならなくなります。これは無駄です。現状の高い買取価格であれば、それでも採算があうのかもしれませんが、長期的な持続性を考えると、自家消費として活用する方が真っ当だと思います。

1984年に発電設備を最初に建設したときには、全て含めて5000万円の投資で済んだといいます。蒸気井は既にありましたので、上物への投資だけではあるのですが、それでも安いと思います。当時の電気代は23円/kwhであったといいますので、初期投資は4年弱で回収できています。



その後、1990年から1992根年の間はNEDOの委託による実証試験のために、100W の設備は止めて、三菱製の200Wと富士電機製の300Wの設備を導入します(この時は井戸を4本使用。敷地内には15の源泉があり、6本の井戸から蒸気がでる。普段は3本使用)。この実証試験終了後は100W の設備を再稼働させますが、富士電機のバイナリー設備の実証実験の話があった段階で、再び100Wの設備は止めています。このバイナリーの実証実験が終わったタイミングで、100Wのタービンをリニューアルして、現在にいたっています。

バイナリー実証試験
富士電機バイナリー設備


タービンのリニューアルには7000万円の費用がかかっています。ケーシングは交換せず再活用しています。もしケーシングまで交換していれば1億円は超えていたとのことです。また、汽水分離機や配管など地熱発電設備全体に投資するとなると14000万円から15000万円くらいになるそうです。

リニューアルした地熱タービン(100kW)

現在の電気代は昼夜を平均すると16円/kWhくらいですので(100W で稼働率70%として、16円/kWhであれば、およそ1000万円)、昔に比べると回収期間は長く、7年から8年くらいとなります。

ランニングコストの低さが採算性を高めています。既に述べましたように、発電はホテル事業に統合されており、ほぼ無人で稼働しますので、発電向けの追加的な人件費はほとんど必要ありません。タービンのメンテナンスは4年を超えないサイクルで行っており、1回に350万円ほどかかります。5百万円かかるとしても4年に1回であれば、年間125万円です。

霧島国際ホテルの発電所は背圧型で、発電後の蒸気をそのまま大気に放出しています。効率は悪いですが、その分、冷却塔の腐食や水質管理に費用がかかりません。

霧島国際ホテルの例からは、地熱をうまく多重利用できれば、FITに頼らずとも十分に経済性を確保できることがわかります。アイスランドにいったときにも同じことを感じました。アイスランドでは、地域暖房、給湯、道路の凍結対策、温水プール、ビニールハウス、スパリゾートなど、様々な用途に地熱エネルギーをしゃぶりつくすように使用し、その上で、大型の発電を行っています。

資源の多重利用が経済性の鍵です。

ただ、もちろんそのためには、もともと十分なエネルギーがあることが必須です。霧島国際ホテルでは、蒸気の温度が高く(142℃)、蒸気卓越型であり(蒸気95%)、蒸気の圧力が高く(3気圧)、水が豊富にあるといった条件が整っています。だからフラッシュ方式で十分発電できます。

多くの温泉場はここまで高温の蒸気はでないので、前回までに説明したようなバイナリー発電を行おうとしています。しかしバイナリー発電では所内電力が大きく(発電量の30%くらいはとられてしまう)、スケール対策も大変だということから、経済的に発電することは簡単ではありません。そもそも少ないエネルギーを無理に活用することに限界があるように見えます。

一方、大きなエネルギーを活用する大規模地熱発電所については、国立公園問題、温泉場からの反対があり、なかなか進んでいません。環境アセスメントや地元の合意形成に多大な時間とコストがかかり、掘削一つとってみても簡単にはできない状況です。

それに対して、1000kW2000Wの中小型の発電所であれば(霧島国際ホテルはさらに小さい100Wですが)、環境アセスメントは必要ありませんし、井戸も温泉井戸と変わらないレベルなので、温泉業者からの反対もでにくいと思われます。たとえ新たに掘削しなければいけないとしても、温泉井戸の掘削と同じですから、コストも安く済みます。

現状もっとも有望そうなのは、中小規模のフラッシュ発電のように思えます。次回は、古くからフラッシュタービンで発電している九重観光ホテルの例を書きます。その次は、中小規模の地熱発電所を地元主導のスキームのもと進めている中央電力の話を紹介したいと思います。