2013年1月16日水曜日

【研究会報告】固定価格買取制度(FIT)の展望と課題


CO2削減とイノベーション」研究会
  第17回研究会報告 2012.6.14


「固定価格買取制度の展望と課題」

 
朝野賢司 氏

(一財)電力中央研究所 社会経済研究所 主任研究員


2012年7月1日から、再生可能エネルギーによって発電された電気を、一定の期間・価格で電気事業者が買取ることを義務付けた「固定価格買取制度」(FIT:Feed-in Tariff)が始まった。しかし、当該制度では、最も要となる買取価格が高めに設定されており、そのことは早くも論議を呼んでいる。そこで、FIT施行直前の開催となった今回の研究会では、再生可能エネルギー政策の研究者である朝野賢司氏にお越しいただいた。日本版FITの中身や成立経緯、先行するドイツ版FITの施行状況を踏まえたうえで、日本の現行制度の問題点は何か、現行制度によって今後どんなことが危惧されるのかなど、シビアな視点からいろいろ問題提起をしていただいた。


★★ 講演録として、より詳しい内容を「リサーチ・ライブラリ」にて公開しています ★★      
    ↓ 「リサーチ・ライブラリ」へのリンクはこちら  (研究会・講義録項からダウンロードください
         http://pubs.iir.hit-u.ac.jp/ja/pdfs/portal?lid[]=13


【講演要旨】

2012年7月1日から、再生可能エネルギーによって発電された電気を、一定の期間・価格で電気事業者が買取ることを義務付ける「固定価格買取制度(FIT)」が施行される。買取価格、買取期間、費用負担など、本制度における重要なイシューについては、経済産業省の調達価格等算定委員会によって審議されてきたが、「再生可能エネルギー特別措置法」に基づいて、「コスト+適正利潤によって買取価格を設定する」という方法が採られ、さらに「3年間の促進期間」が設けられた結果、その価格は非常に高めとなった。残念ながら、より少ない負担で効率を上げ、国際競争力に結び付けていくという視座は、現行制度では抜け落ちている、といわざるをえない。



今回の日本版FITでは、ドイツの例が先蹤とされた。しかし、そのドイツでは、太陽光発電の買取価格を高く設定したことで、拡大した国内市場に世界中から大量の在庫が流れこむという導入ラッシュを引き起こし、その結果、ドイツ国内の製造メーカーは市場を獲得できず、窮地に追い込まれることになった。ドイツ政府は買取価格の改定頻度を上げて費用負担の抑制を図っているが、モジュール価格の急速な下落という悪状況に陥り、導入ラッシュは今なお防げていない。


なぜ、日本は今回、ドイツの蹉跌を教訓とすることができなかったのか。ひとつには、折からの首相交代劇と相俟って、ねじれ国会のなか、超党派合意して進めていく最初の法案に、FITが位置付けられてしまったことが大きい。“政治主導の試金石”とされたがために十分な審議が阻害された、といえる。
加えて、ヨーロッパに比べて遅れている日本の再生可能エネルギー導入を促進するという考えのもと、審議委員たちの予測や議論にも不十分な部分があったことは看過できない。


日本が今後、ドイツのような状況に陥らないためには、法改正によって買取価格の更新を縮減する必要がある。買取価格を通じて導入量や費用負担をコントロールするという、FITの調整機能にもっと注目し、マーケットメカニズムを採って、導入量や費用負担を根拠に価格を決めていく方法も、選択肢として検討すべきである。導入量を増やすことばかりを優先せず、経済的影響等を考慮しながら、電力供給の効率化をどう進めていくかを真剣に考えるべきだろう。 




(文責:藤井由紀子)

↓ 「CO2とイノベーション」研究会についてはこちらをご参照ください
http://hitotsubashiblog01.blogspot.jp/2012/08/co2-magicc-co2-5-6-co2-co2-magicc-hp.html