2012年9月11日火曜日

中国太陽電池産業の変化(2):コスト削減と品質改善


中国の太陽電池産業に関して前回の続きです。




コスト削減の方法
現状のシリコンウェハのワットあたりのコストは2元です。その70%にあたる1.4元はシリコン材料そのものコストです。シリコンの値段は市場で決められてしまうので、企業努力で購入価格を下げることは極めて難しいと思われます。したがって、コスト削減は主としてインゴットやウェハの加工プロセスに対して行われます。

具体的には、加工プロセスの新技術・新工法を導入して、不良品をなくすとか、ウェハを薄くして材料を減らすといったことが行われています。シリコンインゴットを薄く輪切りにするときに出る削りカスは、全て回収して再び材料として投入しているということでした。ただしこの削りカスをなるべく少なくすれば回収コストも節約できます。現状、最もコスト削減余地が大きいのは、ウェハを薄くすることだそうです

また変換効率の改善にも取り組んでいます。現状、単結晶モジュールの変換効率は18-18.5%、多結晶は17-17.5%です。さらに設備の稼働率をあげることに努力しているそうです。例えば、スライサー(NTCコマツ製)によるウェハの製造能力は作業者によってかなり異なるとのことでした。15万枚/月の能力の機械であっても、優秀な作業者が使いこなすと、23万枚つくることができます。ウェハをスライスするにはノウハウが必要だということです。こうしたノウハウは、(1)優秀な人を引き抜くか、(2)会社間の情報交流から得るのだそうです。無錫では太陽電池関連企業が全体で効率化努力をしているといえそうです。製造上の新しいノウハウや技術はどこか1社が確立すると、すぐに伝播するのだそうです。知財の保護が弱いのも一因と思われます。


品質の差について
愛多科技のような中小企業に対して良く言われることは、コストばかりで品質が悪いということです。日本では、サンテックのような大手企業ならまだしも、中小企業のセルやモジュールは品質が悪くてとても使えないということを聞くことがあります。そのことを孫さんと王さんにぶつけてみました。もちろん自分の企業のことを悪くいうわけはありませんので、どこまで真に受けて良いかはわかりません。ただ、王さんは、共同研究者の朱さん(江南大学教授)の教え子ですので(孫さんはその友人)、恩師の前でひどい嘘をつくことはないと思います。

孫さんと王さんによれば、一般にはサンテックの製品の品質が良いといわれていますが、必ずしもそうとは限らないという見解でした。サンテックが顧客に選ばれるのは、第一に、先行者としてのブランド力、第二に、世界No.1であることからくる信頼感、第三に、初期参入者として様々な基準・標準を作ったのがサンテックであるという信頼感からきているという意見でした。

実際には、不良率も耐用年数もそんなにかわらないはずだといっていました。なぜなら、同じ検査機器を使って、同じデータを用いて、同じ基準で認証されているからだということです。愛多科技も、認証のためにCPVTに製品をもっていきますし、別途、欧州やアメリカの認証機関からも必要な認証を得ています。

愛多科技と同じ規模のPV企業は中国全土で200社から300社あると思われます。その半分くらいが江蘇省に存在しています。無錫市だけに限定すると10社ほどだそうです。その他、河北省、浙江省にも多くの企業があるそうです。それ以外にも、従業員10人以下といった小さなPV関連企業は無数にあるということです。

現在のような厳しい事業環境が続けば、来年には200-300社の企業の内、かなりが事業継続できなくなるという見方でした。孫さんは200社、対して、王さんは50社とかなり悲観的でした。

ただ中国市場では1元/Wでも利益がとれるので、現在の問題は経済性というよりは投資資金が集まらないことだといっていました。発電事業自体の投資リターンは10%以上あるそうです。例えば、20MWの発電所であれば年間に3,300kWhの電力を発電します(条件のよい甘粛省では)。これで稼働率20%弱です。1元/kWhの買い取り価格でも3,300万元になります。発電所の設置コストは10元/wですから、20MWですと2億元です。これで16.5%の収益率となり、そこから金利などを引いても10%は残るという計算です。

太陽光の市場はまだ拡大すると考えており、企業としては拡張したいのだけれど、今は投資家がお金を出してくれないし、銀行の金利も7−8%と非常に高いため、設備投資が難しくなっているということでした。(青島矢一)