2012年4月20日金曜日

東大のコンソーシアムでの講演(青島矢一)

2012年4月19日

東大の藤本先生と新宅先生に、ものづくり経営研究センターのコンソーシアムに呼ばれて、話をしてきました。環境やエネルギー問題への対策を考えるときに、産業競争力という観点を失わないようにしなければいけないことを主張する内容で、これまでと変わりはありません。


資料の中に日本のエレクトロニクス企業の2012年3月期業績(予想)のデータがあるのですが、その部分が発表の度に下方修正されていくのは悲しいことです。ソニー、パナソニック、シャープを合わせた純損失が1兆7000億近いというのは大変なことです。


日本の一般会計の法人税収入は8兆円弱、消費税収入が10兆円ほどですから、日本の大手企業がかつてのようにきちんと利益をだせれば、様々な問題の一部が解決します。


ちなみに、僕は、法人税減税はあまり効果がないと思っています。かつて2002年から2007年の好景気(といわれた)時期の製造業の付加価値の分析をしたことがありますが、この時期、確かに利益率は増大しましたが、付加価値率は激減しています。つまり、経営者は、利益を捻出するために、人件費や設備投資を削減していたと思われます(付加価値率低下のもう1つの理由はアウトソーシングの拡大)。


こうした経営者のかつての行動から推察するに、法人税減税で増えた付加価値分は、おそらく利益を捻出する側に回されて、人材や設備への長期投資にはまわらないのではないかと思われます。さらに、一律の法人税減税は、国際競争に晒されていない国内企業にも恩恵を与えることになり、公平性に欠けると思います。


日本に企業を残したいということであれば、国内投資に対する投資減税など、直接的な効果を狙った政策の方がいいと思います。


話がそれてしまいましたが、環境・エネルギー政策を考える上で、産業競争力という視点が欠けているという問題意識は、東大の藤本先生と共有しています。藤本先生も、現在、本を書いているということでした。

藤本先生は、「1日で1章書けると思ったけど、1週間もかかってしまった」といってました。この方、恐ろしい生産性です。センター長であり、2つの学会の学会長もやりながら、会う度に新しい論文をくれます。


コンソーシアムには様々な企業の人が参加していました。話の後、何人かの人が名刺交換にこられて話をしました。興味をもってくださったようです。


地熱発電に関することでは、三菱重工の方と少し話をしました。地熱発電がなかなか拡大しないのには企業側の事情もあるようです。大手企業からすれば、地熱発電は売上規模が小さすぎます。火力発電用の大規模なガスタービンや蒸気タービンの方が圧倒的に一回の売上規模が大きいので、どうしてもそちらに企業の資源は配分されます。



地熱発電の場合には、収益はむしろメンテナンスから生み出されます。腐食などの問題から定期的なブレードの交換が必要になるからです。以前訪ねた別府の杉の井ホテルの小さな発電設備でも、4年に1回、4000万円くらいの補修費用がかかるといっていました。


地熱発電の場合には、燃料費が実質ゼロですから、初期投資の設備費用が鍵となります。それに対して火力発電の場合には、圧倒的に燃料費が高いので、多少設備が高くなっても燃費が向上すれば、相殺されてしまいます。だから技術開発を続けて、性能の高いものをつくって、高く売るという事業モデルが成り立ちます。地熱はそうはいきません。


こうしたことからどうしても地熱発電には力が入りにくいのだと思います。おそらく地熱発電事業は大手企業から分離して、別会社にした方がよいと思われます。様々な地熱発電をリモートで監視することも含めてソリューション提供できれば、十分収益性の高い事業になると思います。

(青島矢一)