2012年3月24日土曜日

愛多科技訪問(2)(青島矢一)


3月19日 

工場見学からもどって、会議室でいろいろと話を聞きました。



愛多のビル(以前は別の会社)
左から王社長、孫社長、青島、朱教授

まずは、会社設立の経緯から。孫さんがこの会社を始めたのは2006年のこと。2002年から2005年はPV産業が立ち上がった時期で、無錫では有名な尚徳(サンテック)が、急成長しました。


サンテックは前工程をもっていませんでしたので、別の会社からウェハを買ってきて、セルに加工していました。そのウェハ製造会社を参考に、事業機会があると判断した孫さんは、努めていた銀行を辞めて(もとの専門は金融)、友達と一緒に300万元を出資し、インゴット製造装置を2台購入して、今の会社を始めました。


最初はインゴットのみの製造でしたので、別のウェハ専門の工場に、インゴットを売っていました。このあたりには、こうした専門の中小企業が数多くあるようです。それらがネットワークを組んで仕事をしているという感じです(この点、興味深いので、さらに調査したいと思っています)。


実際に、王さんが言っていましたが、ソーラー発電所の大きな発注があるときには、1社では対応できないので、小さい会社が集まってみんなで受注するのだそうです。みんな仲良しという感じです。王さんと孫さんも友達だそうで、一緒に新しい会社を作る計画をしているといっていました。両方ともモジュール生産をしているという点では競合なのですけど、ビジネス上の競合と人間関係をうまく両立させて事業を発展させていくあたりが、中国ビジネスの特徴だと思いました。


孫さんが愛多を始めた頃は、シリコンの値段が1トン100万元でしたが、その後、急に値上がりして、1トン320万元になったそうです。それが2006年から2007年のことです。世界的にシリコンが足りなくなった時期です。この頃は、インゴットも高く売れたので、かなり儲けたようです。


愛多の設備投資の推移は以下のとおりです。


インゴット製造 20062台)20074台)20087台)200940台)201267台)
ウェハ製造装置 20084台;安永2台とNTC2台) 201110台)


2009年に急に増えたのは、他の企業の工場を買収したからです


銀行家の孫さんが、シリコンの工場を簡単に立ち上げて運営できているのが不思議だったので聞いてみましました。孫さんによれば、お金さえあれば、簡単なのだそうです。オペレーターは整備を操作するだけで、少しすれば覚えるし、問題が起きれば装置メーカーが対応してくれます。日常のメンテナンスは自社でやるそうです。これも少しやれば覚えるとのことでした。ウェハの検査に関しても検査装置があるので、それを使えば問題ないといいます。


本当なのかなと思いましたが、孫さんは技術に詳しいわけではなさそうなので、どうやらこの程度でできてしまうようです。


ウェハの値段は現在17元。これでは損益ぎりぎりとのことです。月に300万枚を生産しています。孫さんの会社は、後工程にも拡張していて、今はセルとモジュール工場ももっています。自社で生産したウェハの13は外部に売って。23は自社工場向けに出荷しています。


ウェハの顧客は、ドイツの太陽電池企業の他、国内の太陽電池企業です。以前はサンテックにも納入していたといいます。


セルとモジュール工場の投資は2011年で、今年(2012年)量産が始まりました。インゴットと違って、製造技術が必要なのではないかと質問したところ、サンテックから総工程士を引き抜いたとのことでした(給料は2倍支払った)。それ以外にも、友達に助けてもらって工場を立ち上げたそうです。詳しく調べてみないとわかりませんが、どうやら人的ネットワーク(友達ネットワーク)が、創業にあたっては、非常に重要な役割を果たしているようです。


ラインを一括してTKS(ターンキーソリューション)企業から購入したのではなく、総工程士が、サンテック時代の経験から、1つ1つ設備を選択してラインを組んだのだそうです。TKSから購入する企業もありますが、それだと3倍くらいの投資がかかってしまうようです。TKSだと1億元かかるところを、自分でラインを組むと3000万元できるといってました。


ラインの中の重要な設備は、海外から購入しています。印刷機はイギリスから、検査装置はドイツからといっていました。重要でない装置は国内で調達しています。


4ラインのセル工場をつくるのに3億元の投資を必要としました。2億元が設備購入にあてられ、残りの1億元はキャッシュフローだそうです。1ラインで月に20MWを生産します。


単結晶で1819%の変換効率、多結晶で1718%だそうです。モジュールにするとこれから3−4%ほど低くなります。


セルのワット単価は4.5 元とのことでした。その内訳は以下のとおりです。

シリコンウェハ 2.5
その他材料 1.5
人件費、減価償却費 0.5


一方モジュールのコスト内訳は以下のとおりだそうです。

0.5元 人件費、減価償却費(セル)
4.5 元 セル
1.8 元 カバーガラスなど他の材料
0.2元 設備(減価償却)


カバーガラス、EVAシート、バックシートといった材料は、全て国内で調達しています。バックシートは二年前までは日本企業から購入していましたが、今は全量中国です。太陽電池の値段がここのところ急速に低下した理由は、生産量の増大による競争の激化、材料費の低下、技術進歩、金融危機による需要の低迷によるという説明でした。

(青島矢一)